dimanche 24 février 2008

スピノザと日本



このところ本当に不思議な繋がりが続いている。この前身であるハンモックは、今もいろいろな方に訪問していただいている。メールも送られてくるがほとんどすべてがジャンクなので、たまに寄せられる貴重なコメントまでも削除しかねない。昨日はそういう日になるところであった。昨年夏にこちらに来て書いたスピノザについての記事に、山石水皮様からの興味深いコメントが寄せられていたからである。


そのコメントにはこう記されていた。

「スピノザは神学・政治論で日本について書いていると聞きました。何からどのようにして日本を知ったのでしょうか。スピノザは江戸日本からどのよ うな影響を受けているのでしょうか。17-18世紀のヨーロッパの変化について関心があり調べています。お分かりでしたらお教え願えれば幸いです。」

スピノザ (Baruch De Spinoza, 1632年11月24日 - 1677年2月21日)

私自身はスピノザに興味を持ってフランスの雑誌記事について触れたのだが、スピノザを読んでいる専門家でもなければ哲学に広く通じているわけでもない。したがって、この疑問には答えられないので、その旨の返事を書いた。そして、その返事を送ろうとする時、指摘されている不思議なつながりに異常な興味が湧いていた。少し調べてみようという気になりネットをサーフすると、上智大学が発行している雑誌に載っている、まさにこの問題をテーマにした論文に行き当たった。ラテン語とその訳としてドイツ語が出てくるフランス語で書かれたこの論文を頼りに、両者の関係を探ってみたい。

Henri Bernard "Spinoza et le Japon"
Monumenta Nipponica, Vol. 6, No. 1/2, pp. 428-431, 1943

スピノザの死後20年にあたる1697年に、彼に敵対していたピエール・ベール Pierre Bayle (18 novembre, 1647 - Rotterdam, 28 décembre, 1706) というフランス百科全書派のさきがけと言ってもよい哲学者が Dictionnaire historique et critique 「歴史と批判精神辞典」 を出版した。この膨大な辞書はネットで読むことができるが、スピノザの項だけでも70ページが割かれている。その中でスピノザを 「古今のヨーロッパや東洋の哲学者の影響を受けているが、全く新しい体系と方法を持つ無神論者」 と規定した上で、中国の哲学、さらには日本の哲学と同一視しているという。

私がざっと目を通したところでも、無神論を構成する要素が中国人の間には一般的に広まっているという指摘があり、別の書の引用がされている。そこには、中国人は世界の至る所に精神が宿っていると考えており、それは星であり、山、河、植物であったりする、という記載もある。

1649年、スピノザ16歳の時にはベルンハルト・ヴァーレン (ラテン名:ベルンハルドゥス・ヴァレニウス) の Descriptio Regni Japoniae という日本伝聞記がアムステルダムから出版されていた。この著者は地理学にも興味を持っていたドイツの医者にして数学者で、仕事の慰みに日本についての情報をハンブルグの政治家などに提供していたという。28歳の若さでこの世を去っている。



Descriptio Regni Japoniae


1663年には、日本に初めて足を踏み入れたというオランダに移住したフランス人 François Caron の "A true description of mighty kingdoms of Japan and Siam" という書も出版され、日本に関する情報には触れることができたであろう。余談だが、この書はあらゆることに興味を持っていたスウェーデンのクリスティーナ女王にも献呈されている。幸いなことに、同志社大学のケーリ文庫で読むことができる。

その上で、この論文の著者アンリ・ベルナール氏は、Tractatus theologico-politicus 「神学・政治論」 で日本に言及されているのは第5章だけで (日本におけるキリスト教の儀式について) 、実際のところ、スピノザの哲学思想が日本の儒教思想に影響された可能性は低いだろうと考えている。

他の論文に当たっていないので科学的な正当性は保証できないが、この方面への第一歩にはなったように感じている。


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思わぬところから歴史への旅をしたことになるが、過去の書に触れる瞬間にはそれがネット上であっても不思議な興奮が襲ってくることを発見していた。山石水皮様には改めて感謝したい。




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